本を読んだのに、1か月後には内容をほとんど覚えていない。資格の勉強で、覚えたはずのところをまた間違える。——身に覚えがあります。
忘れるのは当たり前で、こちらの根性が足りないわけではありません。問題は「いつ復習するか」を自分で決めていることです。人間は、自分が何を忘れかけているかを正しく把握できません。
そこを機械にやらせるのがAnki(アンキ)です。無料の暗記アプリで、「そろそろ忘れそう」というタイミングを計算して、カードを出してくれます。覚えているものは間隔をあけ、あやふやなものは何度も出す。それだけの仕組みですが、効き方が違います。
この記事では、インストールから日本語表示への切り替え、そして読書と資格勉強への使い方まで説明します。料金の正直な話も含めて。
Ankiとは|忘れるタイミングを計算してくれる単語帳
紙の単語帳をデジタルにしただけ、ではありません。肝は「いつ出すか」です。
使い方はこうです。問題が出る → 答えを考える → 「解答を表示」を押す → どのくらい思い出せたかを自分で申告する。簡単だったのか、なんとか出てきたのか、まったく分からなかったのか。
するとAnkiが「次にあなたが忘れそうな頃」を計算して、そのタイミングで出してくれます。簡単だったものは何か月も出てきません。分からなかったものは、すぐまた出てきます。
つまり「もう覚えたものを何度も見る」という無駄が消えます。限られた時間を、あやふやなところだけに使えるわけです。
基本情報
| 料金 | パソコン版は無料(iPhone版のみ有料) |
| 最新版 | 26.08.1 |
| 対応OS | Windows 10 / 11(64bit)、macOS 13以降、Linux |
| 日本語 | 対応(設定から切り替え) |
| 同期 | AnkiWebで無料同期 |
| 扱えるもの | 文字・音声・画像・動画・数式 |
公式によると10万枚を超えるカードでも問題なく動くそうです。何年使っても重くならない設計になっています。
料金の正直な話|iPhoneだけ有料です
ここは誤解が多いので、先にはっきり書きます。
| 使う場所 | 料金 |
|---|---|
| パソコン(Windows・Mac・Linux) | 無料 |
| Android(AnkiDroid) | 無料 |
| AnkiWebでの同期 | 無料 |
| ブラウザ版(AnkiWeb) | 無料 |
| iPhone・iPad(AnkiMobile) | 有料 |
公式サイトには「AnkiMobileは公式のiOSアプリで、購入代金はすべてAnkiの開発資金になります」と書かれています。Android版は有志が開発していて無料です。
インストールと日本語化
① ダウンロードして入れる
Anki公式サイトを開いて、Windows用をダウンロードします。Windows 10または11の64bit版が必要です。
ダウンロードしたファイルをダブルクリックして、画面の指示に従うだけ。終わるとデスクトップに★のアイコンができるので、それで起動します。
なおWindows 7や8.1では動きません(対応していたのは古い版までです)。お使いのパソコンが古い場合は、事前に確認してください。
② 日本語表示に切り替える
英語で表示されている場合は、設定から切り替えます。
- 上部メニューの「Tools(ツール)」を開く
- 「Preferences(環境設定)」を選ぶ
- 「Appearance(外観)」の中の「General(全般)」を開く
- Languageから日本語を選ぶ
Macの場合は、ToolsメニューではなくAnkiメニューの中に環境設定があります。
ちなみにAnkiはバージョンアップのときにアンインストールが不要です。新しい版をそのまま入れれば、作ったカードは残ったまま更新されます。
覚える言葉は3つだけ
Ankiは奥が深いソフトですが、始めるだけなら3つの言葉で足ります。
| カード | 問題と答えのペア。紙の単語帳の1枚にあたります |
| デッキ | カードをまとめた束。「簿記3級」「読書メモ」のように分けます |
| レビュー | 出てきたカードに答えて、思い出せた度合いを申告する作業 |
やることは、デッキを作る → カードを足す → 毎日レビューする。これだけです。ノートタイプやフィールドといった難しい機能もありますが、最初は無視して大丈夫です。
最初のカードを作ってみる
- 「デッキを作成」で、名前をつける(例:読書メモ)
- 「追加」ボタンを押す
- 表面に質問、裏面に答えを書く
- 保存して閉じる
あとはデッキを選んで「学習」を押すと、カードが出てきます。答えを見たら、「もう一度」「難しい」「普通」「簡単」のどれかを選ぶ。次にいつ出るかは、Ankiが決めてくれます。
★ 読んだ本を忘れないために使う
ここからが、このブログらしい使い方です。
読書の悩みで一番多いのは「読んだのに、内容を説明できない」だと思います。線を引いても、付箋を貼っても、開かなければ思い出しません。
そこでAnkiです。ただしやり方を間違えると続きません。コツがあります。
カードの書き方の例
先日書いた『「幸せをお金で買う」5つの授業』の書評から、実際に作るとしたらこうなります。
| 表(質問) | 裏(答え) |
|---|---|
| 同じ金額を使うなら、モノと経験のどちらが幸福度が高い? その理由は? | 経験。モノは買った瞬間がピークで慣れてしまうが、経験は思い出として残り、語るほど価値が増すから |
| 大好きなものを「たまに」にすると、なぜ満足度が上がる? | 毎日続けるとご馳走も「普通」に薄れるから。頻度を落とすと一回が濃くなる |
「〜とは何か」より「なぜ〜なのか」で書くのがポイントです。理由まで思い出そうとするので、記憶に引っかかりやすくなります。
読書の記憶については読んだら忘れない読書の方法や『アウトプット大全』の書評にも書いています。思い出す作業そのものが記憶を強くするという点で、Ankiはこれらの考え方と相性がいいです。
資格の勉強に使う
本来Ankiが得意なのはこちらです。用語や仕訳のように「覚えるしかないもの」に強い。
わたしは以前簿記3級を受けましたが、あのときAnkiを知っていたら、と思います。勘定科目がどちらに来るのか、何度も同じところで間違えていました。
- 用語の定義:「減価償却とは?」
- 仕訳のパターン:「商品を掛けで仕入れた。借方は?」
- 数字・語呂合わせ:覚えるしかないもの全般
- 間違えた問題:これがいちばん効きます。間違えたその場でカードにする
最後の「間違えた問題をカードにする」が本命です。Ankiは間違えたカードを何度も出してくるので、苦手なところが自動的に潰れていきます。
共有デッキという手もあります
Ankiには「共有デッキ」という仕組みがあって、他の人が作ったカード集をダウンロードできます。英単語や資格試験のデッキがたくさん公開されています。
ただし正直に言うと、自分で作ったほうが覚えます。カードを作る作業そのものが、内容を整理する時間になるからです。共有デッキは「量が多くて自作が現実的でないもの」に限るのがいいと思います。
スマホと同期する(無料)
AnkiWebという無料の同期サービスに登録すると、パソコンで作ったカードをスマホで復習できます。
これが実際いちばん効きます。電車の中や待ち時間の数分で、その日出てきたカードを片づけられるからです。机に向かう必要がありません。
すきま時間の活用そのものは読書時間を作る5つの方法と同じ考え方です。まとまった時間を待たないのがコツです。
ちょっとした小ネタ
名前は日本語の「暗記」から
「Anki」という名前、日本語の「暗記(あんき)」に由来すると言われています。Wikipediaの日本語版にも英語版にも、そう書かれています。
海外で作られた学習ソフトなのに、名前は日本語。しかも中身はまさに暗記のためのもの。名前と実態がぴったり噛み合っているのが、なんだか気持ちいいです。
ただ、正直に書いておくと、公式マニュアルには名前の由来がどこにも書かれていません。英語版Wikipediaの記述にも「出典が必要」のタグが付いています。ほぼ間違いないとは思いますが、「開発者が公式にそう言っている」という証拠は見つけられませんでした。
中身のアルゴリズムが新しくなっています(FSRS)
「次にいつ出すか」を決めている計算方法にも、実は世代交代が起きています。
長らく使われてきたのがSM-2という方式。1980年代に「SuperMemo」というソフトのために作られたもので、Ankiもこれをベースにしてきました。公式マニュアルでは、いまや「legacy(旧来の)」と呼ばれています。
それに代わるのがFSRS(Free Spaced Repetition Scheduler)です。公式マニュアルには、こう説明されています。
どれだけ忘れそうかをより正確に判定することで、同じ時間でより多くの内容を覚えられるようになります。
Anki公式マニュアル(要約)
| 正式名称 | Free Spaced Repetition Scheduler |
| 位置づけ | 従来のSM-2に代わる新しい方式 |
| 設定場所 | デッキオプションのいちばん下にある「FSRS」 |
| 対応 | Anki 23.10以降/AnkiMobile 23.10/AnkiWeb/AnkiDroid 2.17以降 |
| いちばん大事な設定 | 目標記憶率(既定90%) |
目標記憶率は「復習のとき、どのくらいの割合で思い出せている状態にしたいか」を決める数字です。上げるほど間隔が短くなり、毎日の復習量が増えます。公式は90%を勧めていて、97%を超えると負担が跳ね上がるので、それ以下に保つよう注意書きがあります。
とはいえ始めたばかりの方は、設定に手を出さないのがいちばんです。公式マニュアルにも「まず数週間は初期設定のまま使って、Ankiの動きに慣れてください」と書かれています。
「そういう仕組みが裏で動いているんだな」くらいで十分。カードを作って、毎日答える。効果のほとんどは、そこから来ます。
挫折しやすいポイント(正直な話)
Ankiは効きますが、やめてしまう人も多いソフトです。理由ははっきりしています。
- 最初にカードを作りすぎる:張り切って100枚作ると、数日後に「今日のレビュー120枚」となって心が折れます
- 1日休むと溜まる:出題は毎日積み上がります。1週間空けると、戻ってきたときの量に絶望します
- 設定をいじりたくなる:機能が多いので、勉強せずに設定で遊んでしまいます
- 見た目が地味:最近のアプリのような楽しさはありません。淡々としています
- カード作りが面倒:ここを乗り越えられるかがすべてです
3つ目は特に大事です。Ankiのカードは、いつでも消していいものです。全部を抱え込む必要はありません。
よくある質問
本当に無料ですか?
パソコン版は無料です。公式サイトにも「The free computer version(無料のパソコン版)」と書かれています。Android版とAnkiWebでの同期も無料。有料なのはiPhone・iPad版だけです。
紙の単語帳と何が違うのですか?
「いつ復習するか」を自分で決めなくていいことです。紙だと、覚えたページも忘れたページも同じように何度もめくることになります。Ankiは、あやふやなものだけを繰り返し出してきます。
1日どのくらい時間がかかりますか?
カードの枚数しだいです。読書メモ程度(数十枚)なら、1日3〜5分で終わります。資格勉強で数百枚あると、20〜30分かかることもあります。
逆に言うと、作った枚数がそのまま毎日の負担になります。だから最初は少なくするのです。
メモアプリとどう使い分けますか?
目的が違います。JoplinやObsidianのようなメモアプリは「あとで探すため」のもの。Ankiは「頭に入れるため」のものです。
読書メモはメモアプリに全部残しておいて、そのうち「覚えておきたい」ものだけAnkiに移す。この分担がきれいだと思います。
パソコンが壊れたらカードは消えますか?
AnkiWebに同期していれば残ります。登録は無料なので、最初にやっておくことを強くおすすめします。何年もかけて作ったカードが消えるのは、辞書が消えるのと同じくらい痛いです。
古いパソコンでも動きますか?
Windows 10または11の64bit版が必要です。Windows 7や8.1は対応が終了しています。お使いのパソコンが古い場合は、先に確認してください。
まとめ:1冊3枚から始める
Ankiは、「そろそろ忘れそう」を計算して出してくれる暗記アプリです。パソコン版は無料、インストーラーを実行するだけで入ります。
効き目は本物ですが、張り切りすぎると必ず挫折します。始め方はこれで十分です。
- デッキを1つだけ作る(「読書メモ」でも「簿記」でも)
- 1冊につきカードは3枚まで。「なぜ?」の形で書く
- AnkiWebに登録して、スマホでも見られるようにする
- あとは毎日3分、電車の中で片づける
本を読む時間を作るのも大変なのに、読んだ内容を忘れてしまうのはもったいない。1冊あたり3枚でも、1年で100枚以上たまります。それが全部、頭に残っている状態を想像してみてください。
まずは、いま読んでいる本から1枚。それだけで始まります。


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