オンライン会議はカメラより「声」|研究でわかった、つながりを決めていたもの

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オンライン会議で、こんなふうに感じたことはありませんか。

「カメラ、つけたほうがいいのかな……」と迷う。部屋を映したくないし、身なりも整えていない。でも自分だけ真っ黒な四角だと、やる気がないと思われそうで気まずい。

あるいは逆に、会議そのものを避けて、チャットで済ませてしまう。そのほうが早いし、気をつかわなくていいですから。

この「カメラをつけるか」「そもそも声を出すか」という問題について、けっこう面白い研究がいくつも出ています。結論を先に言うと、私たちが気にしている点は、たぶんズレています。

この記事の結論
  • 大事なのはカメラではなく「声があるかどうか」だった
  • 音声にビデオを足しても、つながりは増えなかった
  • 「声だと気まずそう」は、ほとんど思い込みだった
  • むしろカメラONは疲れを生み、発言を減らしていた
  • だから「カメラは任意、でも声は出す」が理にかなっている

研究①:声を足すと、つながる。ビデオを足しても、増えない

2021年に、心理学の主要な学術誌に載った研究があります。タイトルを直訳すると「あなたの声を聞くのは、驚くほどいいものだ」。なかなか素敵な題名です。

この研究チームは、まず初対面の2人に、5つの質問について10分ほど話してもらう実験をしました。「人生でいちばん恥ずかしかった瞬間は?」といった、少し踏み込んだ質問です。

そして参加者を、3つのグループに分けました。

3つの条件
  • テキストチャットだけで会話する
  • 音声通話で会話する(顔は見えない)
  • ビデオ通話で会話する(顔が見える)

会話のあと、参加者に感想を9点満点で答えてもらいました。結果がこちらです。

質問(9点満点)テキスト音声のみビデオ
相手のことを知れた感じ5.386.045.90
会話は楽しかったか6.507.227.05
相手を好きになれたか6.697.357.12
気まずかったか
(低いほど良い)
3.623.193.31

この表、じっと見ていると面白いです。

テキストだけが、ひとつ低い。そして音声とビデオは、ほとんど同じ。むしろ音声のほうがわずかに上ですらあります。

つまり「顔が見える」ことは、つながりをほとんど増やしていなかったのです。効いていたのは、顔ではなくでした。

ここが大事
  • ビデオ ≒ 音声 > テキストという関係だった
  • 差はどれも1点未満で、劇的に大きいわけではありません。ただ、方向は一貫していました
  • 気まずさは、3つの条件で差がありませんでした。声を出しても、気まずさは増えなかったのです

なぜ、声だとつながるのか

「顔が見えたほうが伝わるはずでは?」と思いますよね。私もそう思っていました。

この論文では、その理由についてこう説明されています。人の声には、その向こうに「考えたり感じたりしている人がいる」と分からせる手がかりが含まれているのだそうです。

言い方の間、ちょっとした笑い、語尾のゆらぎ。そういうものが、「これは血の通った人間だ」と自然に伝えてくれる。

そして重要なのがここです。そこに顔の映像を足しても、その感覚はもう増えなかった——過去の研究でも、くり返し同じ結果が出ているそうです。

言葉が同じでも、届き方が変わる
  • 過去の研究では、まったく同じ内容を文字で読ませた場合と声で聞かせた場合を比べています
  • それでも声で聞いたほうが、相手を「ちゃんとした考えを持つ人」として評価しました
  • つまり「何を言うか」ではなく「どう届くか」の問題だということです

チャットに書いた文章が、思ったよりそっけなく受け取られてしまった。そんな経験はありませんか。それは書き方が悪かったのではなく、声がなかっただけなのかもしれません。

「声だと気まずそう」は、ほぼ思い込みでした

同じ研究チームは、もうひとつ面白い実験をしています。

参加者に「何年も連絡を取っていない昔の友人に、久しぶりに連絡してください」とお願いしたのです。方法は、電話かメールのどちらか。

まず、どちらがいいか聞いたところ——67%がメールを選びました。「電話は気まずそうだから」というのが、主な理由です。私も同じことを思う気がします。

ところが実際にやってもらうと、こうなりました。

 やる前の予想実際にやってみたら
つながった感じ電話のほうが強そう予想どおり、電話のほうが強かった
気まずさ電話のほうが気まずそう差がなかった

怖がっていた「気まずさ」は、実際には起きなかった。それなのに、私たちはその起きない気まずさを避けて、メールを選んでしまう。

しかもこの研究では、「気まずそう」という不安のほうが、「つながれそう」という期待より2倍以上強く、選択に影響していました。

私たちは、得られるものより、避けたいものを大きく見積もっているということですね。これは会議に限らず、いろいろな場面で心当たりがあります。

研究②:カメラONは、むしろ発言を減らしていた

ここまでで「声は大事、ビデオは足してもあまり変わらない」と分かりました。では、カメラをつけると何が起きるのか。

これを実際の職場で調べた研究があります。2021年に、産業心理学の学術誌に載ったものです。

やり方が丁寧で、103人の社員に4週間つきあってもらい、のべ1,400回以上の会議について記録してもらいました。しかも同じ人が、ある週はカメラON、別の週はOFF、という形で比べています。

⚠ カメラONで起きていたこと
  • カメラをつけた日は、はっきりと疲れが増えていた
  • そしてその疲れは、会議中の発言の少なさ・関与の低さと結びついていた
  • つまり「参加してほしくてカメラを求めたのに、かえって発言が減っていた」
  • 影響は女性と、入社して間もない人でより強かった。見られ方に気をつかう立場ほど、負担が大きいわけです

これは、けっこう考えさせられました。

「カメラをつけてください」と言う側は、参加してほしくて言っています。ところが実際には、その要求が相手を疲れさせ、発言を減らしていた。善意が裏目に出ていたわけです。

そして立場が弱い人ほど強く効いていた、という点も見過ごせません。カメラONを求めるルールは、いちばん配慮が必要な人にいちばん重くのしかかっていることになります。

ただし、対面に勝てない場面もあります

いいことばかり書くと嘘になるので、逆の話も入れておきます。

2022年に『ネイチャー』誌に載った研究では、ビデオ会議だとアイデアの数が減るという結果が出ています。画面に注意が集まってしまい、思考の幅が狭くなるためだそうです。

ただし面白いことに、「出たアイデアの中からどれを選ぶか」という判断では、対面に劣りませんでした。

整理すると、こうなります。

会議の目的向いている形
新しいアイデアを出すできれば集まりたい
決める・選ぶオンラインで十分
報告・共有オンラインで十分(声はほしい)
関係をつくる・保つ声があれば、カメラはなくてよい

明日から試せる、5つのこと

研究をふまえて、実際にできそうなことを挙げてみます。

やってみる価値がありそうなこと
  • カメラは任意にする。そのかわり「声は出す」を約束ごとにする。研究が支持しているのは、こちらの組み合わせです
  • チャットの往復が3回を超えたら、通話に切り替える。気まずさは、思っているほど起きません
  • 会議のはじめに、全員が一度だけ声を出す。「おはようございます」だけで構いません。一度出すと、そのあと格段に出しやすくなります
  • カメラを求めるなら、理由をセットで伝える。「顔を見て話したいので」と言われるのと、黙って求められるのとでは、負担がぜんぜん違います
  • マイクにだけは、少しお金をかける。声が大事なら、その声を運ぶ道具が肝心です。パソコン内蔵のマイクは、正直かなり不利です

最後のマイクの話は、地味ですがいちばん即効性があると思っています。聞き取りづらい声は、それだけで内容の印象まで下げてしまいます。

録音した会議の音を整えたい方は、会議録音を軽くきれいにする方法と、小さい声・大きい声を一発でそろえる方法もどうぞ。どちらも無料ソフトでできます。

声を出す練習には、音声配信もおすすめです

ここからは私の実感です。

私は音声配信アプリで、ひとりで話す放送を続けています。これを始めてから、会議で声を出すハードルが確実に下がりました。

理由は単純で、自分の声を出すことに慣れたからだと思います。誰も聞いていないところで話す練習を積んでいると、人がいる場でも「まあ、声くらい出すか」と思えるようになります。

ちなみに「聴くほう」についても、2022年に306人を調べた研究があります。そこでは聴いた時間の長さ自体は、満足感とあまり関係していませんでした。

効いていたのは、出演者に親しみを感じているか、聴いた話を誰かに話しているかのほうでした。どれだけ浴びたかより、どう関わったかということですね。ここも「声」らしい話だと思います。

なお「耳で聴く」ことについては、オーディオブックは理解が落ちる?4,687人分の研究をまとめて分かったことにもまとめました。こちらも研究をもとに書いています。

興味のある方は、音声SNS「stand.fm」の始め方と、1年続けて見えてきたことに書きました。お金もかかりませんし、失敗しても誰も困りません。

コミュニケーションそのものについては、書籍『神トーーク』の感想でも触れています。

まとめ:カメラより、声

この記事のまとめ
  • つながりを生んでいたのは顔ではなく声。ビデオを足しても増えなかった
  • 「声だと気まずい」は思い込み。実際には差がなかった
  • その思い込みが、私たちにテキストを選ばせている
  • カメラONは疲れを増やし、発言を減らしていた。立場の弱い人ほど強く
  • だから「カメラは任意、声は出す」——これが今のところの最適解

カメラをつけるかどうかで悩む時間は、たぶんあまり意味がありません。

それより、チャットで済ませようとしていたその1件を、5分の通話にしてみる。そちらのほうが、ずっと大きく効きそうです。

そして最初の研究には、こんな結果もありました。年末年始に声で人と話した時間が長かった人ほど、週明けの孤独感が低かったのです。文字でやりとりした時間には、その関係がありませんでした。

仕事の会議に限った話ではないのかもしれません。次の連絡を、ちょっとだけ「声」にしてみませんか。

この記事で参考にした研究

数字を書いた以上、出どころも載せておきます。すべて査読を受けた学術論文です。

なお、私は研究者ではありません。論文に書かれている結果を、なるべくそのままの意味で紹介することを心がけましたが、詳しく知りたい方は原文をあたってみてください。

それではまた🐧

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