「パスワード管理サービスから情報が流出した」——数年に一度、こういうニュースが流れます。便利だからクラウド型のサービスを使ってはいるけれど、自分の全パスワードを他社のサーバーに預けている状態が、なんとなく落ち着かない。そう感じたことはありませんか。
その不安に対する、いちばんはっきりした答えが「そもそもどこにも預けない」という選択です。それを実現してくれるのが、今回紹介する無料ソフト「KeePassXC(キーパスXC)」。
パスワードは1つの暗号化されたファイルにまとめられ、そのファイルはあなたのパソコンの中だけに置かれます。どこかのサーバーにアップロードされることはありません。
KeePassXCとは?
KeePassXCは、パスワードを「KDBX」という暗号化されたファイル1つにまとめて保管する無料ソフトです。もともとWindows向けにあった老舗ソフト「KeePass」を、有志がWindows・Mac・Linuxのどれでも使えるように作り直したものです。
いちばんの特徴は、アカウント登録もサーバーへの接続も一切ないこと。インストールしてファイルを1つ作れば、それで完結します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ソフト名 | KeePassXC(キーパスXC) |
| 価格 | 完全無料(広告なし・有料版なし・寄付で運営) |
| 対応OS | Windows 10/11(64bit)、macOS、Linux |
| ライセンス | GPL-2.0/GPL-3.0(オープンソース) |
| 暗号化方式 | AES-256(標準)/Twofish/ChaCha20 から選択可能 |
| 最新版 | 2.7.12(2026年8月時点) |
| インストーラー | 「KeePassXC-2.7.12-Win64.msi」約34MB |
| GitHub | 約28,500のスター(2026年8月時点) |
| 保存先 | 自分のパソコンの中のKDBXファイル1つだけ |
【最重要】始める前に知っておくべき2つの覚悟
ここを理解せずに始めると、取り返しがつかないことになります。便利さの話より先に、必ず読んでください。
Bitwardenとどちらを選ぶ?
当ブログでは以前Bitwarden(ビットワーデン)の使い方も紹介しました。どちらも優秀な無料ソフトですが、思想がまったく違います。どちらが上ということはなく、向き不向きの問題です。
| KeePassXC | Bitwarden | |
|---|---|---|
| 保存場所 | 自分のパソコンの中だけ | Bitwardenのサーバー(暗号化済み) |
| スマホとの同期 | 自分で仕組みを用意する | 自動でできる |
| バックアップ | 自分の責任 | サービス側にも残る |
| アカウント登録 | 不要 | 必要 |
| サービス終了リスク | なし(手元にファイルがある) | あり(ただし書き出しは可能) |
| 手軽さ | ひと手間かかる | かなり楽 |
インストール手順
- 公式サイト(keepassxc.org)のダウンロードページを開きます。
- Windows向けの「KeePassXC-2.7.12-Win64.msi」(約34MB)をダウンロードします。
- ダウンロードしたファイルをダブルクリックし、画面の指示どおりに進めます。
- 起動すると、初回は英語表示のことがあります。「Tools」→「Settings」→「General」→「Language」で「日本語」を選び、再起動すれば日本語になります。
最初にやること:パスワードの「金庫」を作る
KeePassXCでは、パスワードをしまう入れ物のことをデータベースと呼びます。実体はKDBXという拡張子のファイル1つです。
- 起動画面で「新しいデータベースを作成する」をクリックします。
- データベースの名前を決めます(「マイパスワード」など、分かりやすい名前でOK)。
- 暗号化の設定画面が出ますが、初期設定のままで十分に安全です。そのまま進めてください。
- マスターパスワードを決めます。ここが最大の山場です(下の解説を参照)。
- ファイルの保存場所を選びます。「ドキュメント」フォルダなど、自分が場所を覚えていられるところにしましょう。
パスワードを登録する・ブラウザで自動入力する
金庫ができたら、あとは中身を入れていくだけです。画面上部の「新規エントリー」から、サービス名・ユーザー名・パスワード・URLを登録します。
パスワード欄の横にあるサイコロのアイコンを押すと、強力なパスワードを自動で作ってくれます。自分で考える必要はありません——というより、考えないほうが安全です。
ブラウザ拡張機能を入れると一気に快適になる
ここを設定しないと「毎回KeePassXCを開いてコピー&ペースト」という面倒な使い方になります。拡張機能を入れれば、ログイン画面で自動的にIDとパスワードが入ります。
- お使いのブラウザの拡張機能ストアで「KeePassXC-Browser」を検索して追加します(Chrome・Firefox・Edge・Braveなどに対応しています)。
- KeePassXC本体の「設定」→「ブラウザ統合」を開き、有効にします。使うブラウザにもチェックを入れます。
- ブラウザ側の拡張機能アイコンから「接続」を押すと、本体側に確認画面が出ます。分かりやすい名前を付けて許可します。
- 以降、登録したサイトを開くと自動で入力できるようになります。
注意点として、自動入力はKeePassXC本体が起動していて、かつ金庫が開いている(ロック解除されている)ときだけ動きます。本体を閉じていると拡張機能は反応しません。
二段階認証コード(TOTP)とパスキーにも対応
KeePassXCは、パスワードを入れておくだけの道具ではありません。
| 機能 | できること |
|---|---|
| TOTP(二段階認証) | スマホの認証アプリが出す「30秒で変わる6桁の数字」を、パソコン側で表示できます |
| パスキー | パスワードを使わない新しいログイン方式にも対応(バージョン2.7.7から) |
| YubiKey | USBの物理キーを挿さないと金庫が開かない、という設定にできます |
| 他ソフトからの取り込み | Bitwarden・1Password・CSVファイルなどから引っ越しできます |
【必須】バックアップの考え方
冒頭の「覚悟②」の答え合わせです。KDBXファイルを失う=全パスワードを失うので、ここだけは手を抜かないでください。
ありがたいことに、KDBXファイルはそれ自体が強力に暗号化されています。だからクラウドに置いても中身は読めません。この性質を利用します。
- 方法1:クラウドに置く OneDriveやDropboxのフォルダにKDBXファイルを保存します。パソコンが壊れても復旧でき、しかも複数のパソコンで同じ金庫を使えるようになります
- 方法2:外付けドライブにコピー 定期的にUSBメモリや外付けHDDへコピーします。FreeFileSyncの使い方で自動化しておくと確実です
- 方法3:両方やる いちばん安心なのはこれです。ファイルサイズは小さいので、負担にはなりません
「クラウドに置いたら意味がないのでは?」と思われるかもしれません。しかしクラウド型サービスとの決定的な違いは、鍵(マスターパスワード)を相手に一切渡していないことです。あちらは金庫の中身も鍵の管理も預けている状態、こちらは鍵のかかった箱だけを倉庫に置いている状態。まったく意味が違います。
スマホでも使いたい場合は
KeePassXC自体にはスマホ版がありません。ただしKDBXという形式は共通の規格なので、対応した別のアプリで同じファイルを開けます。
Androidなら「KeePassDX」、iPhoneなら「KeePassium」や「Strongbox」といった無料アプリが定番です。KDBXファイルをクラウドに置いておけば、パソコンとスマホで同じ金庫を共有できます。
ただしアプリが別々になるぶん、Bitwardenのような「入れるだけ」の手軽さはありません。スマホ利用が中心の方は、素直にBitwardenを選んだほうが幸せかもしれません。
よくある質問
Q. 本当に無料ですか?あとから請求されませんか?
A. 完全無料です。有料版もサブスクリプションもなく、広告も表示されません。オープンソースとして公開され、寄付によって運営されています。
Q. 開発が終わってしまったらどうなりますか?
A. 手元にKDBXファイルがある限り、困りません。KDBXは多くのソフトが対応している共通形式なので、別のソフトでそのまま開けます。「サービスが終了したらデータごと消える」という心配がないのが、ローカル管理の強みです。
Q. 今使っているパスワード管理サービスから移行できますか?
A. できます。Bitwardenや1Passwordの書き出しファイル、一般的なCSVファイルからの取り込みに対応しています。取り込みが終わったら、書き出したファイルは必ず削除してください。あれは暗号化されていない、パスワードの丸見えファイルです。
Q. 家族と共有できますか?
A. 同じKDBXファイルを共有フォルダに置けば、仕組みのうえでは可能です。ただし2人が同時に編集すると内容が壊れることがあるため、あまりおすすめしません。家族での共有が前提なら、その機能を正式に持つBitwardenのほうが向いています。
まとめ
KeePassXCは、「パスワードを他人に預けたくない」という考えを、そのまま形にしたソフトです。アカウント登録もサーバー接続もなく、暗号化されたファイル1つですべてが完結します。
その代わり、マスターパスワードの管理とバックアップは、すべて自分の仕事になります。この責任を引き受けられる方にとっては、これ以上ないほど信頼できる相棒になってくれます。逆にそこが不安なら、無理をせずBitwardenを選ぶのが賢明です。
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