「バイアス(思い込みによる偏り)」という言葉は、聞いたことがある方も多いと思います。でも「ノイズ」はどうでしょう? 私はこの本を読むまで、判断の誤りはぜんぶバイアスのせいだと思っていました。
今回紹介するのは、『ファスト&スロー』で有名なノーベル経済学賞受賞者ダニエル・カーネマンらによる「NOISE 組織はなぜ判断を誤るのか?」(早川書房・上下巻)です。正直に言うと、かなり読み応えのある(=簡単ではない)本でした。それでも「ノイズ」という考え方を知れただけで、読んだ価値は十分にあったと思っています。
本書の概要
著者は3人。いずれも意思決定研究の第一人者です。
- ダニエル・カーネマン:心理学者。ノーベル経済学賞受賞、『ファスト&スロー』著者
- オリヴィエ・シボニー:経営学者。意思決定論の専門家
- キャス・R・サンスティーン:法学者。『実践 行動経済学』(ナッジ)の共著者
頭の良さそうな方々でございますな。
本書のテーマはひとことで言うと、「同じ条件でも、人の判断は驚くほどばらつく」ということ。このばらつきが「ノイズ」です。バイアスとの違いは、射撃の的にたとえると分かりやすいです。
| バイアス | ノイズ | |
|---|---|---|
| 的にたとえると | 弾が全部「同じ方向」にずれる | 弾が「バラバラの方向」に散らばる |
| 正体 | 思い込みによる系統的な偏り | 判断のばらつき・不安定さ |
| 気づきやすさ | 比較的知られている | ほとんど意識されていない |
印象に残った実例:プロでもこんなにばらつく
本書で一番衝撃だったのは、大手保険会社での調査です。同じ案件を複数のベテラン査定担当者に見積もらせたところ、経営陣は「差は10%程度だろう」と予想していたのに、実際には担当者によって5割以上も金額が違ったのです。どの担当者に当たるかという「くじ引き」で、結果が大きく変わってしまう。
ほかにも、同じような事件なのに裁判官によって量刑が大きく違う話、同じ医師でも時間帯や気分によって診断や処方が変わってしまう話(これは「機会ノイズ」と呼ばれます)など、「プロの判断」への見方が変わる実例が次々に出てきます。
人の判断が入るところには、必ずノイズがある——本書のこのメッセージは、仕事で見積もりや評価をする人ほど刺さると思います。
正直な感想:読みやすくはない。でも読む価値はある
| 良かったところ | 正直つらかったところ |
|---|---|
| 「ノイズ」という新しい視点が手に入る | 上下巻でボリュームが多く、読みづらい |
| 実例が豊富で説得力がある | 学術寄りの文体で、例も海外の組織が中心 |
| 心理学・行動経済学に興味が湧く | 日常向けの実践は自分で咀嚼する必要あり |
正直、スラスラ読める本ではありません。私も読むのにかなり時間がかかりました。ただ、「バイアスだけ気をつけていれば大丈夫」と思っていた自分にとって、もう一つの落とし穴(ノイズ)の存在を知れたことは大きな収穫でした。全部を精読しなくても、上巻の前半だけで核心はつかめます。
日常に活かすなら:判断の「衛生管理」
本書では、ノイズを減らす方法を「判断ハイジーン(衛生管理)」と呼んでいます。手洗いがどの病気を防いだか分からなくても感染を減らすように、地味な習慣が判断の質を上げる、という考え方です。私たちの日常に置き換えると、こんな形になると思います。
まとめ
- 判断の誤りには「バイアス(偏り)」だけでなく「ノイズ(ばらつき)」がある
- プロの世界でも、担当者や時間帯によって判断は驚くほど変わる
- 読みやすい本ではないけれど、「ノイズ」という視点を知るだけで日常の判断が変わる
- 大事な判断は「時間を置いて2回」「独立した意見を集める」が効く
「自分の判断は、思っているより不安定」。それを知っているだけで、少し慎重に、少し謙虚になれる気がします。じっくり読書に挑戦したい方に、おすすめの一冊です。

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